鬼はとつぜん追い出されて
とぼとぼ困って寒空の下

「俺たちが一体何をしたってんだ!もう、なんて運命だ!」
「鬼は外!って、ほんと、鬼を追い出すなんてみんな鬼よね。」
「いいなあ、福は、ウチの中にいられて。いててて、もう、こっちが豆苦手だって知ってるはずなのに、なんでぶつけるんだよ!」
「苦手って知ってるからでしょ」
「寒いなあ。ダウンコートくらい着てこれたらよかった」
「パンツ一丁はいくらなんでもだなあ。ま、でも、いいんじゃない?鬼としてのプロフェッショナルな気高さを感じる。」
「そう?」
「うん、そう。いいよ、いい感じ。鬼いい感じ。」
「鬼いい感じなら、いっかあ。」
「ま、追い出されたのも、何かの導きでしょ。」
「・・・まあねー」
「大丈夫大丈夫。そもそも、何もないところから2人でここまでやってたんじゃん。」
「やってきたよなあ」
「あの場所も良かったけど、次の場所もきっといいよ。てか、よくしよう、あたしゃあんたがいるなら全然心配じゃないよ。幸せにしてくれるんでしょ?」
「いや、それは、するよ。完全に、幸せに。」
「ここ、ここだよ。いつだって、今あたしたちがいる場所が、私たちの居場所だよ。」
「おぉぉぉ!鬼はここ!」
「さ、おいでおいで、こっちへおいで。鬼さんこちら、手のなる方へ!」

2人の鬼は歩き始めた。
冷たい風は吹きすさび、2人のクルクルとした巻き毛を揺らしていた。

「・・・何してんの?」
「豆拾ってんの!」
「え、なんで?」
「ポークビーンズ作ってよ。食いたい。」
「おぉぉ、そうきたか」
「君のスープ料理は、あまりに最高です」
「そうですか、ありがとうございます。」
「痛い思いしてぶつけられたんだから、この豆たちを食べる権利はあるね、俺たちには。おおお、食い放題!町中に豆いっぱい落ちてる。すごいな。」
「ポークはないよ?」
「おお、そうか・・・どうしよう」
「なんとかしよう。あったかい豆料理ならなんでも良いんでしょ?」
「良いです!」
「よし、腕をふるおう。」
「たのしみだあ!あったかいものを食べれるんなら、この寒さもむしろ、引き立て役として最高だな。」
「ちょ、見てよ、これ・・・」
「うわ・・・」

2人の鬼は空を見上げると、笑い出した。

「すご・・・満天の星空じゃん。」
「お月さんも、こりゃほんと見事だね」
「風の音も、賑やかだし気持ちいな」
「そして私たちは仲良しだ」
「完璧だ」
「ほんのちょっと、寒いけどね」

星降る夜に、鬼たち笑って豆拾う。
ふざけあいながらに、今を楽しみながら。

星も月も風も、世界のたくさんの色々たちが、鬼たちの幸せのために祈っている。