『マァちゃん溶け切る前に、シャコックシャクラシャラ、暗い部屋で』


マァちゃんは野菜に絵の具を塗って食べるんだ。


「だってその方がおいしそうだという気持ちになるでしょう?」と言われて、


「確かにそうかもしれない。」とは思ったけれど

でも絵の具は口に入れたらいけないし、きっとどうせ苦いに決まってる。


でも、僕が賛成しようが反対しようがおかまいなしで、マァちゃんは野菜に絵具ぬりぬり色つけてシャコックシャクシャラと食べていくんだ。真っ赤なきゅうりを食べる時にはうっとり少女みたいな目をして、群青色のニンジンを食べる時には残酷で切ない泣き声を上げて。


僕はそんなマァちゃんのことを大嫌いになってしまったんだ。

だって、僕はマァちゃんに心の底から恋をしていたから。


とっても久しぶりにマァちゃんの家のインターホンを鳴らした時、マァちゃんはインターホン越しに大喜びをして歌ってくれた。


「入っておくれよ」と言われるままに扉をあけて入ってみたよ、マァちゃんの家の玄関、廊下、そしてマァちゃんの部屋。


マァちゃんベッドの上で、マァちゃんの体に水彩絵の具を塗りたくってたんだ。


ぬりぬり自分に色つけて、だけど、それ、水彩だものね、

マァちゃんの目からボロボロ流れる涙でいっくらでも溶けちまって、

マァちゃん、よくわからない色になっていく。


そのこと悲しいのかマァちゃんもっともっとに泣くのだもの、絵具洗い流されてマァちゃん、マァちゃん色になってく。


僕が扉開けたまま固まってそれを見てたらマァちゃん僕に向かって手を振った。

僕は歩いて近づいた。


マァちゃん僕に水彩絵の具を手渡した。

僕は受け取る。


赤、


青、


黄色、


白、


緑、


黒、


紫、


金、


銀。


マァちゃん笑う。

横たわる。


僕、絵の具のフタを順にあけ、チューブの絵の具マァちゃんにブニュルリとかけていく。


ぜんぶの色、なるべくありったけ、ブニュルリぬりぬるり、かけた絵具、

手のひらで伸ばす伸ばしてくマァちゃんに



マァちゃん溶けて、絵具を、染める。



僕はマァちゃんの部屋の電気をこっそり消して、



食べる。



シャコックシャクラシャラごくごくと。ぜんぶマァちゃん僕ん中。