<取材>
末原拓馬オンラインサロン
Monogatalina
CROWNSの旗揚げ公演で、作・演出は小田竜世による『蝶の筆』。あらゆる才能が芽吹き開花しながら混沌とした大正時代を舞台に、青年期を迎えた3人の小説家・矢代露風、青山千太郎、木島虎蔵の3人が、先行きが不透明な世の中でそれぞれの生き方を見つけていく物語。小説家3人それぞれの人生が躍動し交錯していく骨太なストーリーテリングに、総勢16人のキャストがそれぞれの人生を生き抜いていく様を見せつける“芝居合戦”も大きな見どころだ。舞台公演の千穐楽は5月23日。しかし、5月24日からは配信用に編集された映像販売が開始される。
ここでは、大正時代にあって数奇な運命に翻弄された3人の小説家を演じた塩崎こうせい、末原拓馬(おぼんろ)、大野清志(X-QUEST)に話を伺った。
――まずはプロデュースも務める塩崎さんに、この作品の発端のお話から。
塩崎 大正時代を舞台にした作品をやりたいと考えていました。大正時代はスペイン風邪が大流行して、景気は乱高下、女性民権運動が盛んになって、先行きも不透明な混沌とした時代で、新型コロナウイルスが蔓延し、ジェンダー問題もあって、現代に似ている時代だなって感じていたんです。
末原 公演やるって決めたときから舞台を大正時代に決めてたんだ。
塩崎 そう、決めてた。大正時代に生きた人々の物語から勇気がもらえるんじゃないかってね。現代と違って戦争が近くまで迫っていたから、さらに不安な時代だったと思うんです。そんな時代にあって小説家がたくさん出てきた時代でもある。彼らは何を支えに生きて、どうやって創作をしていたのか…とても興味が湧いたんです。僕自身、不安の中で何かヒントがほしいと思って大正時代を生き抜いた小説家たちに託してみようと思ったのかもしれません。
末原 そもそもへこたれているところからやろう!って思ったんだ(笑)。
塩崎 へこたれているのが発端といえば発端だね(笑)。それと、硬派な作品が少なくなりすぎて、僕がこの作品をやらないと硬派な作品はなくなってしまうと思ったんです。
末原 使命感?
塩崎 そうだね。今オレがやらないといけないんだ!っていう強い思いに駆られたんだよ。
末原 (塩崎)こうちゃんとよく話してたんだけど、エンタメとアカデミックが完全に乖離していて、マジメなものは面白くないことが美徳、エンタメは難しいことをしたら避けられる…みたいな雰囲気があってね。だけど実はピリピリした雰囲気の硬派な作品にこそエンタメとしての面白さや魅力があって、見た目はカラフルじゃないけど、ちゃんと面白いんだって改めて感じさせてくれる作品だと思ってる。信頼している役者同士じゃないと演じられない演劇の楽しさを『蝶の筆』を通して感じてもらえたら嬉しいな。
塩崎 そうだね。新型コロナウイルスの影響で演劇の仕事が飛んでしまったことによって、本来であれば1年先のスケジュールも埋まっているようなキャストたちが揃ったというのも、混沌とした時代を象徴しているかも。こんな時代だからこの出演陣で硬派な作品を紡げたんだと思うと奇跡だとも思います。
――まさに混沌とした大正時代を生き抜いた作家たちに重なるようです。では『蝶の筆』のオファーを受けた側である末原さん、大野さんに作品の第一印象をお聞かせください。
大野 時代設定が大正時代と聞いて、難しくなりそうだなあって感じました(笑)。有名な英雄がいる時代だとイメージしやすいですが、大正時代って誰がいてどんな時代だったのかあまり思い浮かばなくて。それで、大正時代を舞台にした映画をかなり観たんです。最近では、関東大震災の後に導入された“円太郎バス”とかの広告を見ると、“あ!関東大震災後の初めてのバスだ”って敏感になりましたね。先日もテレビを観ていたら、大正から昭和初期のファッションや生活を実践している人が出ていて、“モダンガール(大正期に流行ったファッションを着た女性のこと)だ!”って。これまで演じたことがない時代背景なので、新鮮です。
末原 僕はオファーを受ける前から、こうちゃんが何かやろうとしているってのを匂わしていたから(笑)、何かうあるんだろうなって思ってたんだよ。けっこう仲が良いつもりでいたんだけど、当時はまだTwitterのDMでやり取りをしていてね(笑)。
塩崎 そうだったね(笑)。顔合わせをした後くらいまで拓馬くんの連絡先を知らなかったから、スケジュール確認とかもDMだったんですよ。あるとき“LINEあるよ”って聞いて、“あるなら教えてよ!”って。連絡先を交換したのは本当につい最近だったね。
末原 そうそう(笑)。最初はDMだったけど、こうちゃんが声をかけてくれたときは二つ返事で“やるよ”って返したんだよ。内容も会場も知らなかったけど(笑)。その後で、大正時代って聞いたんだけど、そもそも世界史が好きだから、日本史ってからっきしだったんだよね。
塩崎 そうだったんだ。
末原 そう。浪漫活劇譚『艶漢』(末原は山田光路郎役を演じた)の舞台が大正時代だったから、多少のイメージはあったけどね。ただ、最初は歴史のことを勉強せずに、今を生きている人の感覚で読んでみたんだ。そこから、役のことを考えていったかな。だけど、足尾銅山鉱毒事件って詳しいことは知らなかったよね。
塩崎&大野 (うなずく)
末原 千太郎にとって足尾銅山の事件は、ターニングポイントになる大きな出来事。やっぱり時代背景を知らないまま演じられないから、勉強しておかないとって(笑)。だけど、難しい脚本を演じる楽しさをすっごく感じたよ。
塩崎 こういう難しい作品で役を演じると、役者で良かったって思うよね。特に作・演出の小田さんの脚本って行間が大事で、演じ手なりの解釈もすごく重要なんですよ。今作を演じるにあたってキャスト全員に小田さんが歴史背景を解説してくれたんです。そうすると、大正時代の物語ではあるけど、僕たちは明治時代に生まれて大正時代に青年になったわけで、そうすると明治時代のことも知ってなくちゃいけない。最初はふわっと大正時代でやりたいって思ってたんだけど…。
末原 試験範囲が増えたよね(笑)。
大野 (苦笑)
塩崎 だけど、演じる上での楽しさは膨らんだよね。
―それぞれの役づくりについてお聞かせください。
塩崎 僕が演じる矢代露風は、日露戦争で兄を亡くしていて、兄の上官だった人が家族代わりという役柄です。幼少期も現代とは違って、お隣ご近所の人に面倒を見てもらいながら育てられた人なので、今の常識では捉えにくいんですね。僕は長男だから兄がいるという感覚もないので、まずは自分を捨てるところからはじめました。
僕自身は役柄を固めてから舞台に挑むタイプなんですが、今作では固めずに相手の芝居を受けて演じている感覚です。実は役を演じる上で迷う部分も多かったんですが、みんなが作ってくれた空気感の中で答えを出せることもあって。信頼できるメンバーに囲まれて新しい体験をしている…そんな意味では毎日が初日の気持ちでしたね。
大野 僕自身は、毎日が千穐楽の気持ちで舞台に臨むタイプなんですが、『蝶の筆』は公演ごとに新鮮で、毎日初日の気持ちでした。虎蔵は筋が通っているけど、露風と千太郎に対して尊敬もしてるけど嫉妬もしていて。1幕と2幕で5年の歳月が流れるんですが、その間も迷いながら生きているんですね。そんなくねくねした人生を進む中で、ちょっとずつ成長している虎蔵の姿を演じられるようにしたいと思っていました。
末原 千太郎はお金持ちで天才肌って役なんだけど、自分にない部分が多い役柄だから、まずは自分を消さなきゃって思っていたんだけど、でもどうやら違うんだなって思い始めて…。けっこう紆余曲折があったけど、千太郎は人に対してどういう接し方をするのかなっていうところを手がかりにし始めたら居方がわかったかな。ただね、感情の振り幅がすごく大きな人で、下手に演じると意味のない“結論”を出してしまいそうで。だから舞台上で、千太郎が感じたことをちゃんと体験して限界まで演じてみようって思ってた。千太郎の“時代を動かすんだ”っていう思いを体現して、相手に影響を与えてながら、最後には時代が変わっていくっていう夢がちゃんとみんなにも感じられるように。
塩崎 三者三様の生き様が描かれていくんです。露風は日本からやがて大陸へ渡ることで、ミクロからマクロ視点へと変わっていく。一方で千太郎は最初マクロ視点なんだけど、どんどんミクロ視点へと移っていくんです。だけど、虎蔵だけは変わらない。自分の信念を変えることはないんですね。そこに、天才や生まれ持った才能って魅力的だけど、実直に生きているからこそちゃんとたどり着くところがあるんだよっていう現代に通じるメッセージが込められているんじゃないかなとも感じています。
――『蝶の筆』は5月24日からは映像販売も開始されます。映像の面白さについてもお聞かせください。
塩崎 舞台と映像では、それぞれにいい部分があると思っています。舞台でしか伝わらない息遣いやその場でしか感じられない醍醐味がありますが、映像は何度でも見返すことができるのが大きな魅力です。一度観ただけではわかり得なかったセリフやシーンに隠された意味や、キャラクターの背景などの考察も楽しんでいただけたらと思います。
大野 不思議なことに、舞台作品を映像で見るとまた違った見え方がして舞台では気づけなかった面白さを感じることってあるんですよね。舞台と見比べてみると“思っていたよりもいいじゃん!”だったり“あれ?こんなシーンあったっけ?”とか(笑)。今回の映像では、15日と16日に配信された生配信映像とは違って、映像用に照明を変えたり、編集を加えたりと、舞台とはまた違った楽しみ方ができると思います。
末原 作品をお持ち帰りして自分のものとして観れるというのは、すごく面白いよね。劇場だったら役者の目の届く範囲にお客さんがいるし、独特の雰囲気で楽しめる良さがあるけど、映像として旅立ってしまったら、僕たちの手からは離れてしまうので、楽しみ方はお客さん次第。例えば、アートの展示場にリンゴが置いてあったらアートになるけど、家にリンゴがあったら、普通におやつのリンゴじゃない? 映像作品って、観る側の気分やコンディションによって、アートにもおやつにもなるくらい印象が変わると思うので、思い思いに楽しんでいただけたらと思います。
取材・文/山本ヒロユキ 撮影/今城秀和
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CROWNS「蝶の筆」
映像販売
CROWNS『蝶の筆』 カメラ4台での撮影で、編集済みの映像となります。 <視聴期間> 5/24(月)0:00〜6/6(日)23:59:59まで です。
<価格> 税込4950円
▼ご購入はこちら
CROWNS公式HP:https://crowns.amebaownd.com
CROWNS『蝶の筆』
作・演出 小田竜世
<キャスト>
塩崎こうせい、末原拓馬(おぼんろ)、大野清志(X-QUEST)
竹石悟朗(サンミュージックプロダクション)、小山洋平、遠藤裕司(mild×mild)
福地教光(バンタムクラスステージ)、さひがしジュンペイ(おぼんろ)
清水宗史
なしお成(電動夏子安置システム)、有賀さやか江里奈、吉田智美、夏陽りんこ
熊野ふみ
大多和愛子
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